世界中で人気のボーカロイド(VOCALOID)「初音ミク」の生みの親で,クリプトン・フューチャー・メディア株式会社(本社札幌市,創立1995年)代表取締役の伊藤博之・京都情報大学院大学(KCGI)教授によるオンライン特別講義が,2022年1月14日(金)実施されました。本特別講義は例年,京都コンピュータ学院(KCG)京都駅前校・KCGI京都駅前サテライト6階大ホールで行われていますが,今回は新型コロナウイルス感染予防のため前回に続きインターネットを通じ英語同時通訳付きでライブ配信され,学生たちは自宅などでコンテンツビジネス第一人者の話に聴き入りました。伊藤教授は「初音ミク」誕生の経緯や成長ぶり,音声技術・3DCG技術への取り組み,国内外での幅広い活躍について映像を交え説明しました。講義の最後には,質疑応答時間も設けられました。
「初音ミク」は2007年8月31日に誕生したバーチャルアイドルです。歌詞とメロディを入力すると音声合成で歌ってくれるソフトウェアであり,身長158センチ,体重42キロ,16歳の人気「キャラクター」です。国内外でライブコンサートが開催され,日本文化を世界に発信するクールジャパンの象徴的存在になっています。
伊藤教授は「初音ミクから学ぶデジタルコンテンツの可能性」と題した講義で,クリプトン社の事業を紹介したうえでコンピュータ・ミュージックの基礎を解説しました。そして「コンピュータにインストールして使うソフトウェア化された楽器のことをバーチャル・インスツルメント(仮想楽器)といいます。『初音ミク』は歌声のバーチャル・インスツルメント。ヤマハのボーカロイド技術を使って開発しました。当社がやるまで全くなかった試みで,キャラクターを付けて出しました」と説明しました。
キャラクター化が奏功し,音楽だけでなく「初音ミク」のイラストやCG,コスプレなどを創作してインターネットに投稿する人たちが次々に現れ,創作の連鎖が世界中に広がりました。伊藤教授は,「『初音ミク』をキャラクターとして使いたいという要望が非常に高くなり,権利をどうスムーズにクリアするかということに本社も取り組んでいかざるを得なくなりました」と明かし,権利処理のためライセンスを公開するとともに,コンテンツ投稿サイト「piapro(ピアプロ)」を開設して,創作が生まれやすい環境を整えた経緯なども詳しく述べました。
「初音ミク」は誕生から14年が経ち,大勢のクリエイターによる二次創作・三次創作の結果,歌や音声にとどまらず,ダンスや動画,コスプレ,フィギュアなどへとその表現方法が広がりました。ファッションやオペラ,ロボット,ゲーム,和太鼓,テレビの人気アニメキャラクターとのコラボレーションなどのほか,グッズ展開も拡大が続いています。伊藤教授は「コンテンツは,使えば使うほど価値が増える法則がある。いかにいろんな人に使ってもらうか,コラボレーションしていくかは,すごく大事なことだと思っています」と語りました。
コロナ禍にあっても「初音ミク」は活躍中です。公演やイベント出演がめじろ押しで,2013年から毎年開催されている3DCGライブと創作の楽しさを体感できる企画展のイベント「初音ミク『マジカルミライ2021』」は2021年10月22日〜24日に大阪市,11月5日〜7日に千葉市で開催されました。9月には,2年ぶりに京都南座で中村獅童さんと共演する「超歌舞伎」を上演しています。海外版マジカルミライともいえる「MIKU EXPO」は,2020年4月から5月にかけアメリカとカナダの12都市で公演予定でしたが,新型コロナの世界的感染拡大のため2度延期の後,中止に。しかし,2021年は「MIKU EXPO 2021 Online」として6月6日にオンライン開催,世界に配信されました。商品展開も相次いでおり,ソニーがワイヤレスイヤホンに「初音ミク コラボレーションモデル」を追加,ティアックは初音ミクデザインのBluetooth搭載ターンテーブルを2022年3月に発売します。明和電機は音符の形をした電子楽器の「初音ミク」バージョンを出しました。
伊藤氏は,2013年4月にKCGI教授に就任しました。同年秋には国際的な活動と技術革新が認められ,藍綬褒章を受章しています。KCGIとKCGには相互に授業を聴講できる仕組みがあります。KCGIのコンテンツビジネス関連を学ぶ学生だけでなく,KCGのアート・デザイン学系,デジタルゲーム学系,コンピュータサイエンス学系情報処理科IT声優コースなどコンテンツ関連の学生たちも,伊藤教授の取り組みから多くを学ぶことができます。