ボーカロイド「初音ミク」を生み育てたクリプトン・フューチャー・メディア株式会社(本社:札幌市,創立:1995年)社長の伊藤博之 京都情報大学院大学(KCGI)教授による特別講義「初音ミクがなぜ世界で支持されるか」が2017年12月8日,KCGI京都駅前サテライト大ホールで開かれました。「初音ミク」は誕生してから10年間を経ました。伊藤教授は,さまざまなジャンルのクリエイターが「初音ミク」を題材にして創作を手掛けてきたことや,世界中から愛される存在になった歩みを振り返りながら,参加型イベントの「マジカルミライ」や,世界の各都市で開催されてきた「MIKU EXPO」を,映像を交えて紹介しました。伊藤教授は「ミクは世界中の多くの方々から愛されています。これからも使いやすさを維持し,みなさんに楽しく有意義に活用していただけるよう努めたい」と語りました。世界のコンテンツビジネスをリードする伊藤教授の講演とあって,KCGやKCGIの学生たちは興味深く聴き入っていました。
身長158センチ,体重42キロ,16歳という「初音ミク」は2007年8月31日に誕生。楽曲は10万曲以上,動画投稿数は200万以上(You Tube),公式Facebookユーザーは250万人を超え,世界各地で開催される3Dコンサートでは大勢のファンを集めます。
講義で伊藤教授は,はじめにクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の各種事業について触れた後,「デジタルサウンド入門」としてソフトウェアによる音,曲作りについて学生に説明。「感覚機能のうち,人間が最初に反応するのが聴覚。人の心理に最も影響を与えやすいとされています」と前置きし,DTM(Desk Top Music=コンピュータによる音楽制作)に必要なものは機材(オーディオ,スピーカーなど),ソフトウェア(エフェクターなどプラグインを含む),音源(バーチャル インストゥルーメントなど)であるとしました。そのうちのバーチャル インストゥルーメントについて1960年代の「メロトロン」まで時代をさかのぼり解説,ハードウェアサンプラーから2000年代にはソフトウェアサンプラーが誕生するなど徐々に進化し,ドラム,ピアノ,管楽器の音を作るソフトウェアが生まれるなど拡大してきたとしました。「そこで,人の歌声もソフトウェアで作れたら,という話になり,初音ミクが生まれたのです。歌唱合成技術に加え,キャラクターを融合させたことでボーカロイドとして親近感が持たれたのでしょう」と話しました。
「初音ミク」を展開するにあたっては,権利(著作権関連)をいかに開放するかを重視したといい「著作権についてはライセンスを作成して公表し,初音ミクを自由に使えるものと,ダメなものを明確にしました。また,二次創作物を第三者が使用するにあたって,クリプトン社や二次創作者らの許諾をその都度受けていたのでは負担が大きいと感じ,コンテンツ投稿サイト“piapro”を立ち上げて,非商用に限り,マナーとして創作者に感謝の意を伝えれば自由に使って良いようにしました。クリエイターたちが萎縮することなく,積極的に創作ができるような場づくりに努めました」と説明しました。
初音ミクは,二次創作,三次創作と段階を踏み,歌や音声のみならず,ダンスや動画,コスプレ,フィギュアなどへと,その表現方法が拡大。商品化も続き,ファッションやオペラ,ロボット,レーシングチーム,ゲーム,和太鼓,TV人気アニメキャラクターなど,たくさんのコラボレーションを実現させました。今年は「初音ミク」誕生日の8月31日限定で,千葉市の市章にも活用されました。
伊藤教授は初音ミクの中国バージョンが誕生して2017年9月,初の上海コンサートが実現したと紹介。2018年の「マジカルミライ」は例年の幕張メッセに加え,大阪でも開催することを明かしてくれました。10年を経た「初音ミク」は今後も,世界中の多くの方々に愛され続けるはずです。
伊藤氏は2013年4月にKCGI教授に就任しました。国際的な活動と技術革新が認められ,2013年には秋の藍綬褒章を受章されています。KCGIとKCGでは相互の授業の交流があり,お互いの授業を聴講できる仕組みがあります。KCGIにあるコンテンツビジネスコースの学生だけでなく,KCGアート・デザイン学系,デジタルゲーム学系,コンピュータサイエンス学系情報処理科 IT声優コースなどコンテンツ関連を学ぶ学生たちも,伊藤教授の取り組みから学ぶことが多々あるでしょう。