2007年4月に,京都コンピュータ学院が行っている海外コンピュータ教育支援活動の一環として,ボスニア・ヘルツェゴビナ国,エリトリア国,キルギス共和国へパソコンを寄贈した。この海外コンピュータ教育支援活動(International Development of Computer Education:略称IDCE)は,京都コンピュータ学院が所有するPCを発展途上国へ寄贈し,現地でのコンピュータ教育へ活用してもらうことを目的とした完全なボランタリー活動で,1989年にタイ王国に対して行って以来,19ヵ国に計3,000台以上の寄贈実績がある。IDCEでは各国の政府レベルの機関に対して寄贈を行い,その後,教育省が中心となって,コンピュータが不足しているためにICT教育が十分に行き渡っていない地域の中・高等学校にPCを配布する。
私は5月末,上記寄贈プログラムに関して,ボスニア・ヘルツェゴビナ国での受け取り機関である,外務省Multilateral Economic Relations and Reconstruction,および教育省を訪問した。また,ICT教育の現状を知るため,いくつかの大学を視察した。その時の様子を紀行文として紹介したい。
ボスニア・ヘルツェゴビナは1995年まで国内での紛争が続いていた国で,街はもちろん,大学の研究施設なども戦争によって破壊された。しかし,サラエボの人たちは戦争の悲惨さを感じさせず,暖かくもてなしてくれた。
ボスニア・ヘルツェゴビナの首都であるサラエボはかつて冬季オリンピックが開催された街でもあり,周りを山々に囲まれた,ちょうど京都のような街である。街並みは高層のマンションが並ぶ新市街と,トルコの影響を受け,イスラム・モスクの塔のとんがり屋根が目立つオリエンタルなムードの旧市街がある。
サラエボは前述のように戦禍によって大きなダメージを受けた街のひとつである。人々からは悲惨な過去の印象は受けないが,街の建物のあちこちにはまだ銃弾によってコンクリートが丸く剥がれ落ちた外壁が目立つビルも多々ある。我々の活動が少しでも人々の役に立てればと,そのような光景を目にするたびに思った。教育省では大臣自らが我々と面会していただき,今回の寄贈をきっかけにICT教育分野での京都情報大学院大学との交流が深まることを望むとおっしゃっていた。
サラエボには名物の料理がある。チェバプチチという名前で,ひき肉の肉団子をソーセージのように細長くしたものをピタ・パンの間に挟んで食べる料理である。好みによってサワークリームをパンに塗って食べたりもする。ソーセージはにんにくと胡椒味がよく利き,ほどよくスパイシーで,肉汁がピタ・パンに染み込んでとてもおいしい。旧市街にはこのチェバプチチの味を争っていくつものお店が狭い路地に軒を連ねており,狭い路地を散策しているあいだも,テラス席からの良いにおいが漂ってくる。
サラエボのほかに,スルプースカ共和国の首都であるバニャ・ルーカへも赴いた。サラエボから車で5時間かかる。同エンティティの教育省と大学の視察が目的であった。教育省大臣とは面会できなかったが同様に寄贈に関しての謝辞を承った。
バニャ・ルーカはサラエボとは異なり,平坦な土地で,街は整然と区画整理されていた。街の中央を大きな川が流れ,大きなボートがレストランになっており,市民の憩いの場所のひとつである。周りの木々の緑が川面に映り,とても美しい。
バニャ・ルーカは男性1に対して女性が7という人口の割合である。おそらく戦禍により多くの男性の命が失われたものと想像する。
この地方は磁束密度の単位にもその名が使われているニコラ・テスラ氏の出身地とのこと。訪問したバニャ・ルーカ大学では電気工学実験ではテスラ・コイルの放電実験をすることが必須になっているそうだ。
約一週間の訪問であったが,ボスニア・ヘルツェゴビナ国の理解が少し深まった。国際交流,国際支援を遂行する上で,双方の文化を理解しあい,お互い尊重することが大切であると,いままでのIDCE活動で得た実感である。今後もKCGグループが世界のICT教育に貢献できるよう,私もその一助になれるよう頑張ろうと思ったしだいである。
植田 浩司