高 弘昇 教授
元サムスン電子株式会社
戦略企画室情報戦略部長(CIO)
一般社団法人日本応用情報学会 代表理事
韓国出身の高弘昇教授は,韓国の家電・電子部品最大手,三星(サムスン)電子株式会社の戦略企画室情報戦略部長(CIO)として,企業のインターネット活用戦略,B2Bの主な概念であるCALS,一般消費者向け電子商取引の実現などに力を注ぎ,企業の情報化および収益増に大きく貢献しました。
その高教授が,激変するeビジネスの世界で必要とされる人材について語ります。
eビジネスをリードする人材育成に向けて
戦略が求められるeビジネス
‐eビジネスの世界は急速に変動しているようです。インターネットの普及に伴い,ビジネスのあり方も変わってきましたか。
私が三星電子の情報戦略部長になって間もない1990年代半ば,海外向けも含めたウェブサイトを立ち上げました。当時はまだ,インターネットがマーケティングの強力なツールになるとは考えておらず,単に,企業の知名度向上のための手段という認識に過ぎませんでした。しかし,サイトを公開した途端,世界中のあらゆるところから製品のアフターケアに関する問い合わせや苦情などのメールが1日200通ほど届いたのです。このとき,ウェブサイトをマーケティングに活用できるのではないかとの感触を得ました。
その後,ウェブ上の予約システムや証券取引など,インターネットを利用したビジネスは増えました。しかし,ただインターネット上で使えるシステムを開発してビジネスを展開すれば売り上げが大幅に伸びる,というわけではありません。当時,韓国でもインターネットさえ使いこなせばビジネスがうまくいくという,間違ったITブームが起きました。インターネットショッピングモールを作って商品を並べれば,世界中から顧客が集まってきて商売が成立する,と思い込んでしまったのです。実際,ほとんどのショッピングモールが,数年でインターネット上から消えてしまいましたよね。
結局は,インターネットが一つのツールでしかないということに気付かなかったのでしょう。また,「戦略」が不足していたともいえます。インターネット上に商品がいくら並んでいたとしても,所詮,画面上に示されているだけに過ぎません。実際に商品を買うときは,オフラインで手に取って確かめてから,というケースがほとんどでしたからね。
立ち遅れる日本企業と不足する人材
‐激変する環境の中,現在の世界のビジネス事情をどう見ていますか。
5Gの普及によって,ビジネスのあり方が根底から変わりつつあります。まず,これまで主に2次元空間の範囲にとどまっていたサイバースペースが,3次元空間として展開されるようになりました。いわゆる「メタバース」時代の到来です。他方,モノやサービスをたくさん売って利益を出すというマーケティングの観点からいえば,これからますます企業対企業の取引,いわゆるB2Bのビジネスが発達してくることが予想されます。これは5Gによって,セキュリティ面も含め,データ量が多くかつ重い企業間のビジネスデータを,大量に速くやりとりすることが可能になるからです。
日本では未だに,「わが国にはまだ他国より優れた技術力があるから大丈夫」「日本でいいモノを作れば,それが世界でも売れる」といった旧来の思考法やビジネス慣習が,大企業も含めまかり通っているように感じます。ですが,この20〜30年でアジアや中南米の新興国が安く高品質の商品を製造できるようになってきたことから,「日本製」の商品に以前のような輝きやブランド感を世界の人々が無条件に感じ,買ってくれるという時代ではなくなってきています。
一方で,GAFAに代表されるアメリカのビッグテックは,「オープンイノベーション」でビジネスを発展させることができるということを世界に示し,証明してきました。競合各社がまず技術を共有し,協力し合うことでビジネスのパイを大きくし,その後,しかるべき競争によってパイの取り分が決まるというオープンイノベーションによって,Googleはじめ各社は世界の一流企業へと成長していったのです。
アジアに君臨する専門職大学院へ
‐このような中,本学はどのような特長を打ち出し,何を目指していくのでしょうか。
インターネットやSNSの進歩は目覚ましく,かつてはアメリカで起きたことを世界が知り模倣するのに数日~数カ月のタイムラグがありましたが,今では何か最先端の事象が起きたその瞬間に,世界のどこでも知ることができるようになりました。世界中の企業と企業が瞬時に結びつく時代,国境という概念はますます希薄になり,今まで見たことのないような様々なビジネスやサービスが出現しようとしています。AIの発達により農業や工場労働といった力仕事を人間が行う機会はどんどん減っていき,さらにはオフィスワークや論文・書籍の執筆といったことまでAIがすべてやってくれるといったことが現実になる日が来るでしょう。また,SDGsという観点からも,気候変動をはじめとする持続可能な世界の発展に関わる様々な問題を,AIがすべて解決してくれるような時代がやってくるかもしれません。
5Gによりメタバースが普及しB2Bのビジネスが発達する時代,何を学ぶかということがこれからますます重要になってくるでしょう。最先端のITと経営の両方を学ぶことができるKCGIでは,「メタバースで流行るビジネスは何か?」といった未来の世界の創造に直結する学びを深めることが可能です。未来の技術,未来のビジネスを学びたい方は,ぜひKCGIに進学してもらえたらと思います。