甲斐 良隆 教授
元帝人株式会社
元三菱信託銀行株式会社 統括マネジャー
京都大学工学士,同大学院修士課程修了(数理工学専攻),工学修士,関西学院大学大学院博士後期課程修了,博士(商学),元神戸大学経営学研究科助教授,元関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科教授(経営戦略研究科長),関西学院大学名誉教授 等
甲斐良隆教授は,大手繊維企業の帝人で物流システムや,日本で初めてとなる人工知能を活用したアパレルMDシステムを開発,その後,三菱信託銀行に移り,資産運用システムの開発や運用を担当されました。合わせて28年間の実務経験を踏まえ,京都情報大学院大学(KCGI)では経営学,金融関連に加え,フィンテックについても指導します。
いまや金融機関ではコンピュータ部門が中核へ
「フィンテックの走り」を手掛ける
‐ITと金融の関係についてお聞かせください。
私は三菱信託銀行勤務時代,株式のシステム運用や,債券オプションモデルの開発,住宅ローンの証券化などを手掛けましたが,どれも日本ではほぼ初めてといってよい試みでした。これらはいわば,コンピュータの先端的利用が不可欠で,フィンテックの走りと言えるものでしょうね。金融業務はもともと,数字の世界であり,数値処理に力を発揮するコンピュータとはきわめて親和性が高く,金融業務の歴史は機械化の歴史といっても過言でないほどです。そこでは長らく,業務の効率化が経営の重要課題であり,ITがそれを支援するという位置付けでした。時代は流れ,電子商取引関連の銀行が次々と現れるなどして既存の金融機関の存在基盤が脅かされるようになっています。かつては無縁だと思われていた人員整理などリストラや転職者増加のニュースが流され,学生の就職希望企業ランキングでも金融機関は低迷しているのが現状です。そのような中,金融機関はこれまでの営業や融資などと並び,コンピュータ部門が経営戦略の推進エンジンといった認識が広がるとともに,組織の中核を占め始めています。
自ら業務を分析,洞察し,場合によっては業務そのものを設計する力
‐IT担当者の役割はどう変わっているのでしょうか。
ITが業務の効率化を支援するという形は,金融に限らず多くの産業で共通していました。ITが支援の役割を担うゆえ,IT関連の技術者は現場で働く人が描いた設計図通りに,コンピュータを組み立て,プログラムを書けば良かったのです。ところが,ITの急速な進歩は演算,記憶の面にとどまらず,人間しかできないと思われていた判断,推論にも利用できることを明らかにし,融資や資産運用の分野においても人に取って代わる存在と見なされるまでに成長しました。そうなると,量の深化が質の変化を起こしたのです。すなわち,業務設計とIT化は一体のものになり,2つの間に厳密に線を引くことなど,不可能になりました。また,IT関連の技術者に求められる資質も変化を起こします。設計図を待つ受け身の存在でなく,自ら業務を分析,洞察し,場合によっては業務そのものを設計することも求められるようになってきたのです。その方が「考える人」「作る人」といった分業体制よりはるかに効果的,効率的な場合が多いのです。まさに,IT関係者にとって今まで経験したことのない別次元の世界が始まりました。金融×ITを表す「FinTech」をはじめ,教育×ITの「EdTech」,農業×ITの「AgriTech」,医療×ITの「MedTech」など,次々に新しいジャンルが生まれています。
学ぶことにより人生観が変わる醍醐味
‐そのような時代,KCGIではどのような指導をされますか。
私にはMBAでの指導経験がありますが,社会人が入学してくる理由はおおむね ▽これまでやってきたことの専門性をより高めたい ▽技術者,研究者にとどまらず,管理者としてのスキルを身につけたい ▽転職や起業をしたい―の3パターンに分けられます。そのように多様な人が多様な目的をもって学ぶのが,実務系大学院の魅力です。KCGIには大学を卒業してすぐに入学する学生も多いのですが,ITと経営を統合的に学べる機会を得られる数少ない場所です。現実の課題に直面し,問題意識を強く持ちながら,自分を高めたいと願っている学生にぜひ入学してほしいですね。自ら会社を起こす機会もきっとあることでしょう。ただ,今の学生に多く見られるのは,情報やデータを集めるのは上手なのに,全く白紙の状況から何かを新しく生み出すというのが苦手だという点です。そのような中,私は指導目標に-▽これからの人生をかけて取り組みたいテーマをじっくり選択する ▽単位取得だけではなく,専門家としてわが国トップクラスを目指す ▽書くこと,人に伝えることを徹底的に鍛錬する ▽現実の世界とモデル(抽象化された構造,パラメーター)を行き来することで実務の本質を理解する ▽修了後も大学院で培った人的ネットワークを維持する-を据えています。学ぶことによって見えなかったものが見えてくる,違ったように見える,それによって人生観が変わり,生き方が変わる。そのような醍醐味は大学院でしか味わえません。また,共に学んだ者は利害関係のない一生の友です。そのような友人,恩師をKCGIで見つけてほしいと強く願っています。修了後も「共同研究」を続けることは可能です。勉強でつながる大きなネットワークを築くことができたら,私は幸せです。前述しましたが,IT関係者にとって今まで経験したことのない別次元の世界が始まっています。その先導役をみなさんに期待します。開拓者の苦労はありますが,みなさんの前途は洋々です。開拓者魂と困難を克服する力をKCGIで身につけてください。