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2007年2月 情報系分野モデルカリキュラムの現状

京都情報大学院大学では,この3月に修了予定の学生諸君が課程修了プロジェクトの最後の仕上げに全力をあげているところです。これらのプロジェクトの成果は,本学が開学以来3年間にわたって続けてきた教育努力の効果を反映するものですが,その根底となるのが教育課程のカリキュラムです。学習カリキュラムの策定は如何なる分野においてもその教育努力の根底となるものですが,今回のコラムではこれに関連したモデルカリキュラムというものについて紹介しようと思います。

情報系カリキュラムは,二つの理由でその策定に困難が伴います。第一に,この分野における技術革新のスピードが極めて速いため,かなり頻繁にその内容をチェックし,必要ならばこまめに改定を行う必要があります。第二に,情報系の学問分野というものが他の伝統的な学問に比べてきちんと定義しにくいという点です。従って,関係する多くの学会等においてはこの分野のモデルカリキュラムの開発と普及に大いに力を入れています。モデルカリキュラムとは,該当の学問分野の発展状況がいかなる状況にあるかを明確にした上で,その分野における若手の専門家をどのように育成するべきかの詳細を,社会との関連も加味してモデル化したものです。

このようなモデルカリキュラムに関して情報系でよく知られているものとして,米国の学会であるACM(計算機学会),IEEE(電気電子学会),AIS(情報システム学会)などが合同で開発しているものがあります。ACMが1968年に発表した有名な「Curriculum 68」は,コンピュータサイエンス分野のモデルカリキュラムとして世界で初めて発表されたものであり,これはその後の情報系の大学教育に大きな影響を与えました。このカリキュラムはその後10年単位で改定がなされてきましたが,その動きは最近になって大きく変わって来ています。

第一に,改定の周期が当初のように10年に1回というのではとてもこの分野の学問・技術の急速な進展について行けないということから,その周期を短くする努力がなされるようになった点です。第二は,情報系の新分野の発展が顕著で,単に情報といってもその内容は非常に多岐にわたるようになったため,単一のカリキュラムで網羅することが不可能となってきた点です。従って,情報系の学問・技術を一段上のレベルのカテゴリーとして捉え,複数の下部カテゴリーからなる総合分野とする見方をとるようになりました。そして,カリキュラムもそれぞれの下部カテゴリーに対して個別に作るようになってきました。カリキュラムに関するレポートの表題も「Computing Curricula」(CurriculaはCurriculumの複数形)となりました。“Computing”という言葉は日本語の“情報学”に対応するものといってよいかと思います。

ACM系のモデルでは,このComputingというカテゴリーに含まれる下部カテゴリーは現在,5分野となっています。2001年の段階ではこれは4分野でしたので,今後これらの分野がどのように発展するかは非常に流動的なところがあります。この5分野は以下のとおりです:(1)コンピュータ科学(Computer Science),(2)コンピュータ工学(Computer Engineering),(3)情報システム(Information Systems),(4)情報技術(Information Technology, IT),(5)ソフトウェア工学(Software Engineering)。学部レベルの教育の場合,これら5分野のそれぞれが個々の学科に対応すると考えてよいでしょう。米国ではこのような分野設定に基いた大学カリキュラムの再編成が進んでいるようです。

上記の「Computing Curricula」は学部教育を主目標としたものですが,例外として「情報システム」があり,この分野では大学院修士レベルのモデルカリキュラム設計が行われています。その理由は,この分野の教育内容がProfessional School(専門職大学院)としての大学院教育にふさわしいと考えられているためです。実をいうと京都情報大学院大学の「ウェブビジネス技術専攻」の教育内容は,この「情報システム」分野に密接に関係しています。そして,つい最近「Master of Science in Information Systems 2006 (MSIS 2006)」として最新のものが発表されました。

このモデルカリキュラムにおいては,ここ数年における情報通信技術の進歩と最新のビジネス手法の出現に対処するため,修士課程の「情報システム」教育のカリキュラムにおけるいくつかの重要な変更の必要性が提案されています。京都情報大学院大学のカリキュラムは3年前にその第1版を策定してから,時に応じて詳細な部分については適宜微調整してきましたが,その大体の方向はこのMSIS 2006の内容とほぼ一致しており,本学の教育努力が世界水準に沿ったものであることが確認できます。

寺下 陽一