BIPROGY フェロー CTO
羽田 昭裕氏
新しい時代に向けて
日本ユニシス株式会社(現 BIPROGY株式会社)・総合技術研究所は2017年2月,京都情報大学院大学(KCGI)およびグループ校の京都コンピュータ学院(KCG)と「産学連携に関する協定」を結び,「未来環境ラボ」を開設いたしました。BIPROGYの研究員が定期的に学校に駐在して,学生とともに共同プロジェクトを推進していく産学共同の場です。刻々とテクノロジーが進化するITの時代には,業種や業態を超えた恒常的なイノベーションが要請されます。その鍵となる新たなタイプの自律性を陶冶するには,経済主体である企業と教育機関など社会的な主体との密接な連携が重要になっています。
「未来を予測する最善の方法は,それを発明することだ」という言葉でも知られるアラン・ケイは,1984年に「音楽は見えないものに形を与える」というレオナルド・ダ・ヴィンチの言葉を引きながら,「楽器,音楽,総譜」をメタファーとして,「コンピュータ,コンピューティング,ソフトウェア」の関係を示し,コンピュータ教育のあり方などについて論じました。このメタファーを用いると,楽器による演奏自体が作品であった状態から,18-19世紀には,聴く人を動かすことが西洋音楽の焦点になり,さらに演奏者や指揮者への正確な総譜を作品として書く時代になったように,21世紀のコンピューティングという音楽は,自律した機械や組織と人々を動かす「場」の構想が,作曲家によって総譜として書かれ,その「場」で演じられるものとなるだろうと想像しています。言い換えれば,新たな自律性を求められる人々には,作曲家=構想者として人工物と人間とがともに理解できる楽譜を書くことが求められます。そこで,このラボでは,社会や地域の課題や解決策をデータから見いだすLocal Gate,様々なシナリオを個々人の経験や知識を越えて生み出せるようにするInner Gate,想定した未来の環境をプロトタイプするFuture Gateなどの共同プロジェクトを夢見ています。
この「未来環境ラボ」に期待するのは,イノベーションへとつながる発想やアイディアの産出の場になることです。第一線の経験と知識を持つ当社の研究員と新鮮な発想を持つ学生が共同で企画・研究することで,斬新なITの利活用が生まれることでしょう。そしてこの共同作業を通して,様々な分野に挑戦し続けられる人材,内部に多様性を備えた人材も数多く巣立っていくはずです。BIPROGYと京都情報大学院大学・京都コンピュータ学院は歩調をそろえて,IT社会の未来を切り開いていきます。
京都情報大学院大学 東京サテライト長
田中 久也教授
- 元独立行政法人情報処理推進機構IT人材育成本部長・理事,日本工学教育協会上級教育士
- 元富士通(株)勤務
期待されるIT人材像
〜個を磨き,多様な個性を持つコミュニティの中で力を発揮できるIT人材に〜
ITは,電化製品や自動車といった生活用品に組み込まれ,またスマートフォンやSNSなどのコミュニケーションツールやネット販売などのサービスを発展させて,私たちの生活を格段に便利に変えてきました。なかでも,SNSは個人が世界中の見知らぬ人たちともコミュニケーションをとれる人類が有史以来はじめて手にした手段です。今やITはあらゆる分野の革新(イノベーション)の源泉となっています。ITは政治,経済,エネルギー,食料,医療,介護等世界,人類が抱えている諸問題を解決する手段として世界中で期待されています。そしてイノベーションを担うIT人材は世界中でその活躍を期待されています。
また,日本のIT産業のビジネスモデルも大きな転換点を迎えています。従来の日本のIT産業は顧客システムの開発受託が大きな比率を占めていました。要求を出す人と開発する人が分かれ,開発する人は仕様に忠実に品質,コスト,納期を守ることが第一要件で,創造性を求められることが多くありませんでした。しかし,ここ数年発注側のユーザ企業の求めるものが変化してきました。個別開発から提供されるサービスの活用への変化です。サービス提供側の創造性,独自性が大きく求められています。それでは,イノベーションを担う,創造性,独自性が期待されるIT人材とはどのような人材なのでしょうか。どのような力を必要とされているのでしょうか。
従来,産業や技術は国や企業という枠組みの中で発展してきました。ITは国や地域,個別企業といった枠組みという境界(ボーダー)を超える力を持ち,ボーダーを超えた新たなコミュニティの中で,新たな技術や産業が生まれてきています。このようなボーダーレスな環境,その中で技術や産業を生み出すコミュニティの中で今後働いていくためには,一人ひとりには個性(アイデンティティ)が要求されてきます。自分は何が得意であると一言で言えることが大事になってきます。所属団体や職種で自らを語るのではなく,信条,価値観,感性,技術,付加価値で自らを語れる人材であることです。
一芸に秀でていることが大事です。一芸はデータベース,ネットワーク,セキュリティ等IT関連でも良いし,音楽,絵画,文芸などの芸術分野でも良いし,マーケティング,生産管理,経理,人事などの業務分野でも良いのです。多様な個性を持つコミュニティの中で必要とされる得意分野があることが重要なのです。
また相手の異なった考えを理解し認められる謙虚な姿勢,自らの考えを伝え,共に新たなものを生み出す創造力を発揮できる情報発信力を持っていることが個性を活かす上で大事な素養となってきます。
私は産業界の中で新たな製品やサービスの企画や普及に携わってきました。イノベーションは必ずしも一人の天才だけが生み出すものではありません。日本には古来より「三人よれば文殊の智慧」という言葉があります。個性を持った人が知恵を出し合うことで,大きなものを生み出すことができます。個を磨き,多様な個性を持つコミュニティの中で力を発揮できるIT人材が期待されています。