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日本最初のIT専門職大学院−IT分野の高度専門職業人を育成するために

1 研究大学院と専門職大学院

大学院における人材養成は,①研究者の養成と,②高度専門職業人の養成に大別することができます。わが国においては,これまで,研究者養成のための「研究大学院」が主流であり,高度専門職業人の養成に特化した教育を行う大学院は皆無に等しい状況でした。

しかし,近年の急速な技術革新,社会経済の急激な変化(多様化,複雑化,高度化,グローバル化)などを受け,高度で専門的な職業能力を有する人材の輩出を望む声が,産業界を中心に強くなっています。また一方で,社会人として活躍をしている人々が,自らのスキルアップ・キャリアチェンジを望む声も強くなっています。

このような社会的要請に対して,従来の研究大学院では十分に応えられない面が多々あります。すなわち,

  1. 研究大学院では,研究が高度になればなるほど,研究領域の専門分化・特殊化が顕著になり,一般実務を遂行する上で必須となる広範なスキル・知識をバランスよく修得できるカリキュラム構成がなされていません。
  2. 研究大学院では,実務経験のない研究者を中心とした教員構成をとっているため,実社会における実務との乖離が甚だしく,実務の遂行に必要な実践的教育がなされていません。
  3. 研究大学院では,関連した特定の学部の出身者に入学者が限られてしまう傾向にあり,キャリアチェンジの機会を創出できません。

「専門職大学院」とは,2003年施行の改正学校教育法によって始まった新しい制度であり,高度で専門的な職業能力を有する人材(高度専門職業人)の養成を目的とする大学院です。従来の研究大学院とは異なり,専門職大学院では,一定割合以上の実務系教員の登用が義務付けられ,教員1人に対する学生数が厳密に規定されるなど,実務家養成のための種々の考慮が払われています。専門職大学院とは,高度専門職業人の養成という社会的要請に応え,様々な職業分野の特性に応じた柔軟で実践的な教育を可能にする新たな大学院制度なのです。

2 プロフェッショナルスクールとは

専門職大学院のモデルとなったのは,米国のプロフェッショナルスクールです。その特色として以下のような点が挙げられます。

  1. カリキュラム構成上,ある特定の課題についての知識や技能の伝授のみに重点が置かれることはありません。社会を理解する力,倫理的規範に基づく行為遂行能力,社会全体に対する関心を持つことなど,広範かつ総合的な能力を育成するための配慮がなされています。
  2. 教育方法にも特色があります。一方向の講義ではなく,ディスカッションやグループワークを授業に多く取り入れ,学生の自発性・積極性を育成することに力点を置いています。また実務経験者が教壇に立つことも多く,実社会に直結した実践的なテーマで授業が行われます。
  3. 出身学部にとらわれず,様々なバックグラウンドを有する多様な学生を受け入れています。これにより多くの人にキャリアチェンジの機会を与えるという社会的な意義を果たしています。多様な出身学部からなる学生集団の中で学ぶことにより,個々の学生は,広い視野や柔軟性を自然に身につけることができます。

米国においては,社会の各分野でリーダーとして活躍するプロフェッショナルは,ロースクールやビジネススクール(MBA)などのプロフェッショナルスクールの修了者で占められ,専門職の学位に対し,極めて高い社会的評価が与えられています。本学は米国型のプロフェッショナルスクールを目指しています。

3 日本最初のIT専門職大学院として

本学は,専門職大学院制度に立脚しながら,ロチェスター工科大学やコロンビア大学など米国の諸大学との教育ネットワークを礎とし,米国のプロフェッショナルスクールの教育ノウハウをカリキュラム上に取り入れつつ,それらをわが国の状況に適合させています。すなわち,

  1. カリキュラム構成においては,技術系科目,経営系・経済系科目を中心として,リーダーシップ,人材育成などの科目も多く取り入れ,IT分野の高度専門職業人となるために必要な高度で多岐にわたるスキルをバランスよく修得できるように配慮しています。
  2. 企業において活躍してきた実務経験者や,米国プロフェッショナルスクールの出身者などを,教員として多数登用しています。教員1人に対して学生数10人以下という理想的な教育環境のもと,ディスカッションやグループワーク,プレゼンテーションなどを多く取り入れた実践的な授業を通じて,IT分野の高度専門職業人を育成しています。
  3. 出身学部にとらわれず,多様なバックグラウンドを有する人材を広く受け入れています。また,社会人に対しても広く門戸を開いています。従来の日本の大学院制度では,例えば,文学部出身者が大学院においてIT・コンピュータ分野を志望することは困難でしたが,本学はキャリアチェンジの機会を創出しています。

従来の研究大学院とは異なる,以上のような特色を有する本学は,日本最初のIT専門職大学院としての役割を果たすべく,独自の教育を展開しています。

活躍のフィールド

現在,産業界では,IT(ICT)の高度化(特にウェブビジネス技術の普及)に伴い,従来からの「IT化」に比べ,高レベルのIT導入が課題となっています。すなわち,IT(ICT)を単なる業務改善ではなく,高度な企業戦略の策定に活用しようとする動きです。これは,経営のトップレベルでのIT化を意味し,それに関与する人材は高度な知識・技術と同時に高度な経営センスをも要求されます。

本学では,業界の求める高度IT人材を育成するためのカリキュラムを実現しています。本学の修了者は,以下のようなIT系の職種に就くことが期待されます。

CIO(Chief Information Officer:最高情報統括責任者)

企業のIT化が進み,経営の根幹をITが支えるようになるにつれ,IT戦略を立案して企業経営の一翼を担うCIOが企業では求められるようになっています。CIOは,企業の経営戦略立案に携わり,そうした戦略を実現するための環境構築に向けた情報戦略を策定し,企業の有する多種多様な経営知識を有機的な情報システムとして実現していく高度専門職業人です。

プロジェクトマネージャー

プロジェクトマネージャーは,企業内の経営資源を有効活用しつつ,最新の情報技術の導入などを適切に行い,プロジェクトを統合的に管理・効率化する能力を有する高度専門職業人です。そのため,ITと経営の幅広い知識を兼ね備えていることが必要です。また,プロジェクトは様々な部署を横断して編成されることが多いため,高度なコミュニケーション能力とリーダーシップが求められます。

AIアーキテクト

人工知能(AI)は,Society 5.0に代表される人間中心の未来社会を実現するためのキーテクノロジーです。AIアーキテクトは,機械学習などのAI技術に習熟するだけでなく,適用対象業務や応用分野の分析能力,AIシステムの開発・利活用能力を活かして,様々な分野での課題解決と最適化を進める高度専門職業人です。今後の社会システムの構築や産業組織の運用などでの中核業務を担い,重要な役割を果たすことが期待されています。

システム統合コンサルタント

日本の企業では,社内でのIT人材の不足から,IT化推進における社外コンサルタントの需要が高くなっています。システム統合コンサルタントは,顧客企業の経営戦略に沿ったビジネスのシステム化構想に関するコンサルティングを行い,現在の熾烈な国際ビジネス競争を勝ち抜く企業間連携を効率的に進めるための適切なスキルを持った高度専門職業人です。顧客のニーズを理解し,適切な対応が求められることから,IT,マネジメント,コミュニケーションの高いスキルが必要となります。

アントレプレナー

アントレプレナーは,「ゼロから事業を生み出す人」のことであり,一般的に「起業家」と認知されています。新しい事業を起こす創業者というポジションであり,会社の理念を貫くために強い意志や組織を牽引するリーダーシップが必要です。また,経営の実行において非常に大きい責任を持っており,事業の状況や現場の課題を常に把握しておく必要がありますので,マネジメントスキルが必要となります。

ITアーキテクト

ITに対する深い知見をもとに,経営課題・業務課題を解決するためのIT戦略立案,ITグランドデザインの策定,IT企画,その後の推進・実行までの一連を担当する高度専門職業人です。ITスペシャリストに「経営的視点」を加えた役割を担い,システム開発における共通仕様・要件定義やシステムのあり方を検討・提案,システム全体の方向性や仕組みから運用・保守要件まで提示することができる能力が必要となります。

情報セキュリティコンサルタント

情報ネットワークは,eコマースやIoT(Internet of Things)などを実現するうえで不可欠のインフラとなっています。一方で,これらネットワークを取り巻くセキュリティリスクは拡大し続けています。情報セキュリティコンサルタントは,顧客が情報セキュリティポリシーを策定し,情報資産を守るための助言や支援をします。また,顧客の状況を把握し,適切な対応を行うために,マネジメントやコミュニケーションの能力が必要となります。

コンテンツ製作管理者

映画やアニメーション,ゲームソフトなどのメディアコンテンツの製作において,コンテンツ製作管理者は,プロジェクトチーム全体の管理を行います。まず企画書を製作し,協力して製作にあたる会社と交渉して,具体的な予算を確保します。また,製作物をどのように利用して資金を回収するか計画し,実行します。過去の事業実績や現在の市場の状況などの分析能力や,チームをまとめて計画を実行するリーダーシップが求められます。

データサイエンティスト

ビッグデータなどから必要な情報を収集,抽出,分析して,ビジネスの状況改善に向けた施策を立案します。ビッグデータの拡大は,経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」の中でも言及され,データサイエンティストの需要をさらに高めています。近年は,農業や医療などの分野でもビッグデータの利活用が進み,活躍の場は広がっています。マーケティングや経営の知識に加え,統計解析やデータマイニングなどのITスキルや,仮説と検証に基づく論理的な思考力が求められます。